梅雨のシェルターで出会った、雨音に慣れない犬たち
6月中旬、関東はまだ梅雨入りしたばかり。私は保護犬シェルターのボランティア体験に参加した。傘をさして坂道を上ると、プレハブの建物から遠慮がちな鳴き声が聞こえてくる。中に入ると、雨音とは別の「生活音」に犬たちが反応していた。ケージの扉が開くたびに耳を伏せる犬、逆にしっぽを振って近寄ってくる犬。同じシェルターでも反応はさまざまだ。
スタッフの一人が「梅雨は犬も落ち着かない季節。湿気で床が滑りやすくなるし、散歩の回数も減りがち」と教えてくれた。この日は、犬舎の除湿とタオル交換、そして短時間の室内遊びが主な作業。雨の日ならではのケアがあることを初めて知った。
ボランティアの一日から見えた「保護犬の日常」
朝の準備:犬舎の環境を整える
午前9時、まずは犬舎の換気と除湿から始まる。梅雨時は湿度が70%を超えることもあり、犬の皮膚トラブルを防ぐために除湿器は欠かせない。床には滑り止めマットを敷き、水皿はこまめに交換。スタッフは「水の飲み方一つで体調がわかる」と話す。実際、ある犬は水を飲む量が減っていて、午後に獣医師の診察が予定された。
散歩は短時間で濃く
雨の日は散歩の時間を短縮する代わりに、におい嗅ぎを重視する。スタッフが「雨でにおいが流れやすいから、犬は情報収集に余念がない」と笑う。舗装路ではなく、軒下や土の上を選ぶと足裏への負担が少ない。帰ったら必ずタオルで拭き、足の裏の乾燥を確認する。これが梅雨の散歩の基本だ。
午後は室内トレーニングとふれあい
雨で外に出られない分、室内で「生活音に慣れる練習」が行われる。掃除機の音、食器の音、来客のノック音などを録音した音源を小さな音量から流し、犬が落ち着いていられたら褒める。この日は、若い柴系の犬が最初は緊張していたが、30分後にはスタッフの足元でくつろいでいた。
「終生飼養」を考える——スタッフの言葉から
休憩時間、ベテランスタッフのAさんに話を聞いた。Aさんは「引っ越しが多い人は、保護犬を迎える前に『引っ越し先で飼えるか』を具体的に調べてほしい」と言う。ペット可物件でも、小型犬しかダメ、頭数制限がある、といったケースは少なくない。また、転勤で海外赴任となった場合、犬を連れて行くには検疫や航空会社の条件があり、簡単ではない。
「でも、だからといって諦める必要はない。ボランティアとして関わる道もあるし、里親になるなら転勤の少ない時期を選ぶとか、家族で分担するとか、工夫次第」とAさん。実際、シェルターには「里親希望者向け説明会」で、引っ越しの予定がある人向けに具体的な相談窓口を案内しているという。
「終生飼養」という言葉は重い。だが、犬の寿命は10〜15年。その間の生活変化を完全に予測することはできない。だからこそ、困ったときに相談できる関係を築いておくことが大切だと感じた。
転勤族がボランティアから始めるという選択
引っ越しが多い人にとって、保護犬を迎えるハードルは決して低くない。しかし、ボランティアなら自分の生活スタイルに合わせて関われる。例えば、月に1回の犬舎掃除、イベントの手伝い、里親募集のSNS拡散など、できることは多い。
この日一緒に作業したBさんは、転勤族の会社員。単身赴任中で犬を飼うのは難しいが、月2回ボランティアに来ている。「犬と触れ合うと癒されるし、スタッフから犬の性質を聞けるのが楽しい。将来、定住したら里親になりたい」と話してくれた。
ボランティア体験は、保護犬のリアルを知るだけでなく、自分が犬と暮らせるかを見極める機会にもなる。シェルターによっては、見学だけでも受け付けているところがある。まずは電話で相談してみよう。
梅雨の見学・ボランティアの実践ポイント
- 服装:汚れてもいい長袖・長ズボン。犬の爪で引っかかれても大丈夫な素材。長靴か、濡れてもいいスニーカー。
- 持ち物:着替え、タオル、除菌ウェットティッシュ、マスク(犬アレルギーのある人は特に)。
- 心構え:犬によっては人見知りする。無理に触らず、スタッフの指示に従う。アレルギーの有無を事前に伝える。
- 雨の日の注意:犬舎は滑りやすいので走らない。傘の持ち込みはスタッフの指示に従う。
また、見学の際は「譲渡後のフォロー体制」を必ず確認したい。例えば、引っ越し後の相談窓口があるか、定期的な連絡はあるか、など。信頼できる団体は、里親になった後のサポートも丁寧だ。
雨上がりの犬舎で考えたこと
夕方、雨が小降りになった。犬舎の前で、スタッフが一匹の老犬に話しかけている。「この子は10歳。前の飼い主が引っ越しで手放したんだ」。老犬は静かにスタッフの手に顔を寄せていた。転勤や引っ越しが理由で手放される犬は少なくない。だからこそ、迎える前に「自分が移動しても一緒に暮らせるか」を真剣に考える必要がある。
ボランティア体験は、その覚悟を育む第一歩になる。梅雨のひととき、犬たちの息遣いを間近に感じながら、私はそんなことを思った。もしあなたが転勤の多い暮らしをしているなら、まずはボランティアから始めてみてはどうだろう。犬たちの現実を知ることが、未来の選択を変えるかもしれない。


